奥匹見峡から原生林の尾根を辿って初登頂 野田ヶ原の頭(1,136m)・天杉山(1,173.6m)

島根県益田市匹見町・広島県山県郡安芸太田町

2007年6月30日(土)    チャコ&門

 

 

 

 

〈霧に巻かれた広島・島根県境の原生林の尾根を行く〉

 

 

台所原のさらに西にあって西中国山地の秘境と呼んでもいいような

天杉山(あますぎやま)を主峰とする広島・島根の県境尾根上の山々。

一度は登りたいと思っていた天杉山に、運良くこの日登頂する好機が巡ってきた。

山仲間と台所原から高岳への縦走をやりたいものだと語り合ったものの、

県境尾根の登山道の状況がよく分からないので、その下見も兼ねて

奥匹見峡の登山口から高岳までの

数年前に山岳連盟が整備した縦走路を辿ってみようと思いこの日訪ねてみた。

奥匹見峡駐車場から支尾根を辿って県境尾根に合流した地点で、

天杉山方面へ素晴らしい道が続いているのを見て、

高岳までよりも距離的にも近い天杉山に方向転換することにした。

下界は梅雨の合間の晴天となっている筈であるが、この山域は霧に巻かれるという生憎の天気。

しかし、ブナやミズナラの原生林の繁る豊穣な森に霧が入り込むと何とも言えない幽玄な雰囲気!

熊の跋扈する森でもあるが、鈴を鳴らして、また時折大声も掛けながらアップダウンの多い尾根道を進んで行った。

 

 

《山行記録》

奥匹見峡駐車場(登山口)9:06・・・・10:17 標高968m峰 10:21・・・・10:35県境尾根分岐10:38・・・・11:00 988m峰(休憩)11:07・・・・11:25一服の丘・・・・・11:54野田ヶ原の頭(1.136m)11:57・・・・12:19ご神木(老杉)・・・・12:28天杉山(1,173.6m)(三等三角点、昼食)13:02・・・・13:09ご神木13:10・・・・13:37野田ヶ原の頭(1,136m)・・・・14:00一服の丘・・・・14:17 988m峰・・・・14:37県境尾根分岐・・・・14:55 968m峰14:58・・・・15:50奥匹見峡駐車場(登山口)

〔総所要時間:6時間44分、昼食・休憩等:0時間55分、正味所要時間:5時間49分〕

 

 9:06 奥匹見峡駐車場(登山口)

  国道191号線で県境を越えて島根県に入り7.5キロメートル行ったところに大きな「奥三段峡」の道標があるので、そこを左折して橋を渡り約600m谷間に入っていくと自動車は行き止りとなって、大きな駐車場がある。駐車場の北側に登山口がある。

登山道は、暫しやや笹や夏草が被る谷間を斜度を上げながら登って行く。10分ほどで尾根上に出ると、右手に奥三段峡を形成する三ノ谷を俯瞰出来るが、この日は奥の方は霧に閉ざされていた。登山道はしっかりしたもので、やがて森の中に入る。幾つかの小ピークを越えながら支尾根を登って行く。赤松、ミズナラ、ブナの美しい尾根だ。標高968mのピークの手前には長々とした厳しい急坂が待っている。

 

 

 

〈登山口の奥匹見峡駐車場:この上に20余台駐車可能だ〉

〈登山口から急坂を上がり、これから行く尾根筋を仰ぎ見る〉

 

 

 

 

 

〈奥匹見峡を形成する三ノ谷は霧に閉ざされていた〉

 

 

 

 

 

 

 

〈上るほどにブナの樹が増えてくる〉

 

 

 

〈森に入ると赤松、ミズナラなどの美林だ〉

 

 

10:17〜10:21 968m峰

  梅雨の湿気の中汗だくとなりながら急坂を上り切ると支尾根の最高点の968mのピークだ。ここまで1時間10分を要しているのは、やや時間がかかりすぎという感じである。赤松の美しい頂点で小休止のあと、ミズナラ、ブナの美林の中の尾根道を県境尾根に向けて下り気味に進んで行った。「巨倒木」などと名前の付いた倒木もあったが、道はよく整備されて歩き易い。

 

 

 

 

 

〈赤松の美しい標高968mのピーク〉

 

 

 

 

〈美林の中を下って県境尾根へ向かう〉

 

 

 

10:35〜10:38 県境尾根(高岳・天杉山分岐)

  登山口から約1時間半かかって県境尾根に合流した。高岳方面と天杉山方面への分岐点でいずれへも立派な登山道が通じていた。ここで天杉山方面への素晴らしい登山道を見て、高岳へピストンする予定であったが方向転換して天杉山を目指すことにした。

  分岐を出ると暫し素晴らしい赤松の林の中を行く。そこを過ぎると、早速に笹の中の急坂に差し掛かった。この先の標高988mのピークを越えるまでの間、幾つかの小ピークを越えて行くこととなる。分岐から約20分の988mピーク上で小休止を取り、羊羹などを食してエネルギーを補給した。その先の鞍部からは野田ヶ原の頭のまで長い上りとなる。鬱蒼と繁ったブナやミズナラの原生林の中を行く道で、森の中に霧が流れ込んできて幽玄な雰囲気となっていた。こんな天気の日にはかような辺地にまで来る登山者はいないようで誰にも会うことがなかった。熊が笹原からゴソゴソと出て来たりしないことを願いながら、県境尾根のほぼ中間点である一服の丘を抜けて、森閑とした緩い上りの坂道を進んで行った。

 

 

 

〈奥匹見峡からの尾根が終わり県境尾根に合流する〉

〈天杉山への道は暫し赤松の美林の中を行く〉

 

 

 

 

 

〈登山道は笹原の中に開かれている、直ぐに上りとなる〉

〈標高988mのピーク越えなどアップダウンを繰り返す〉

 

 

 

 

 

〈県境尾根の中ほどの小高い丘に付けられた名がこれだ!〉

〈上り行くほどに霧が巻いてきた〉

 

 

 

 

 

〈霧の巻いた原生林は幽玄な雰囲気だ〉

 

 

 

 

 

〈豊穣な森も霧が流れてモノトーンの世界となる〉

 

 

11:54〜11:57 野田ヶ原の頭(1,136m)

  国土地院の地形図に1136mの標示がされている地点が野田ヶ原の頭である。長々と登ってきた登山道が緩やかにピークアウトしようとする地点にある樹の足元に「野田原1,136m」と記された杭が立てられてあるだけの散文的なピークであった。頂点の樹の裏側には、パウチされた紙が結わえられてあり、その紙には「天杉山頂上まであと15〜20分」と記されてあった。付近は霧に包まれた幻想的と呼んでもよい森で、ピークアウトした登山道はその森の中を標高差80mほどドンドンと下って行き、コバノフユイチゴの白い花咲く鞍部からは今度は標高差120mほどを上り返してこの日の目的地の天杉山の頂上に至ることとなる。相変わらず霧に巻かれた尾根道を緩慢に登って行っていると湿った谷間から蝉の鳴き声のような蛙の大合唱が聞こえてきた。熊鈴の音も消されてしまい、ちょっと不安にもなる。やがて頂上直下で、いかにも老杉といった感じの古木に出合った。ここにも足元に「ご神木」と記した杭が打ち込まれていた。

 

 

 

〈野田ヶ原の頭にあった手製の標識〉

〈野田ヶ原の頭付近の森〉

 

 

 

 

 

 

 

 

〈天杉山頂上直下の「ご神木」と表示のある老杉〉

 

 

 

 

 

 

 

12:28〜13:02 天杉山(1,173.6m)

  長い間待ち望んでいた天杉山の頂きに立つ時がきた。その頂上は笹原を切り開いた草地の狭い空間であった。中央に三等三角点の石柱が草と笹に隠されるように建てられおり、端っこの方に浜田山の会が設えた趣のある指導標があった。

この草地に勇躍踏み込んだ時にとんでもないものが出迎えてくれた。足元に大きなマムシさんが侍っていた。それもいかにもマムシですといった毒々しい色合いの赤マムシであった。その直前まで草叢をストックで叩き叩きマムシへの対応をしながら登って来たのであるが、草地の広場に踏み込む時にうかつにもマムシ対応をしていなかった。もう少しで踏むところであった。そのマムシくん、やがてナルコユリの咲く草叢へ隠れてしまった。

  頂上にも誰もいなかった。あるいは台所原方面からの登山者がいるかと期待はしていたのであるが、梅雨時にここまで来る人はいないのであろう。頂上広場の周りは笹原と潅木に囲まれているため、眺望はなかなかに得難いようだ。先人の情報では東側の樹々のくびれから深入山や砥石郷山がかろうじて見えるらしいが、勿論この日の山上は霧で、眺望のチョの字もなかった。

  登山口から天杉山頂上まで3時間かかっていた。やはりやや時間がかかり過ぎのようだ。我々夫婦は足早の方ではないが、それに加えてパチリ、カシャと幻想的な霧の景色や路傍の花などの写真を撮るのに手間取っているのも間違いない。チャコが言うように、「一枚では1分間だけとしても、60枚撮れば1時間」かかるわけだ。

  頂上広場で昼食を摂った。先ほどまでマムシがドクロを巻いていた狭い広場は決して居心地が良いところでなかった。静かな頂上ゆえ、熊がいつか突然現れないとも限らない。そんなことに思い至りながら食を進めていると、約30分間で食事を終えてしまっていた。

 

 

 

〈天杉山の頂上、狭いながらも頂上広場がある〉

〈頂上の指導標〉

 

 

 

 

 

〈草や笹に隠れそうな三等三角点〉

〈頂上広場脇に咲いていたナルコユリ、蝮はこの繁みに隠れた〉

 

 

13:37 野田ヶ原の頭(1,136m)

  昼食を終えて早々に下山の途に就いた。霧に覆われた原生林の中は昼なお薄暗く、夕刻と誤解した熊くんが早々に出てこないとも限らない。ここ早く下山するに限るという訳だ。この時間になっても、他の登山者の姿はやはりなかった。

 

 

 

〈野田ヶ原の頭、登山道脇に小さな指導標があるだけだ〉

〈霧の中に咲くヤマボウシの花〉

 

 

 

 

 

 

 

 

〈霧に巻かれて昼なお暗い原生林の尾根を下る〉

 

 

 

 

 

 

 

14:37 県境尾根分岐

   野田ヶ原の頭と県境尾根分岐との間の後半の小刻みなアップダウンは、長い時間歩いて来た者にとってはなかなかきついものがあった。こんなにアップダウンがあったのかと疑いたくなるほどであった。最後の急坂の下りはやはりこんなにきつい傾斜であったかと目を疑ってしまった。その急坂を下れば赤松の林となり、直ぐに分岐となる。

 

 

 

〈県境尾根を外れて奥匹見峡への道を採る〉

〈霧も晴れ明るくなった支尾根〉

 

 

14:55〜14:58 968m峰

  奥匹見峡谷へ下る支尾根を辿り968m峰を過ぎると、根拠のあることではないが、熊と遭遇する危険が少し減ったような気になる。下山口が近くなった安堵感によるものであろう。968m峰から約10分間の下りも極めてきつい急坂だ。そこを下り切ったところに「苦悶坂」と記した指導標が樹に結び付けられてあった。やや大袈裟な表現過ぎるというものだ。下って行くと上りには霧に閉ざされていた三ノ谷を俯瞰できた。最奥は辿って来た988m峰辺りであろうか。尾根からの下りに掛かると、駐車場はもうすぐだ。

 

 

 

〈968mピーク直下の急坂は「苦悶坂」と命名されているようだ〉

〈霧が大分晴れて姿を現した三ノ谷、奥の尾根を今日辿った〉

 

 

15:50 奥匹見峡駐車場

  遥か南に頂上部が雲に隠れた春日山などの山容を眺めながら奥匹見峡駐車場へ下っていった。駐車場に辿り着くと、一台の軽自動車に乗ったご夫婦連れに出会った。この日この山域で会った初めての人達だ。三の滝への遊歩道の状況を見に来られたようであったが、天杉山への登山路の状況に興味があるらしく色々と質問を受けた。近々登ってみたいともおっしゃっておられた。ご健闘をお祈りしたい。

 

 

 

〈下山直前に霧に隠れた春日山(989.2m)を望む〉

〈駐車場からこの道を辿れば三の滝まで行けるという>

 

 

 

〔山行所感〕

  思いがけずにと言うか、山との出合いによって長い間登ってみたいと思っていた天杉山に急遽登頂することが出来た。西中国山地の秘境と思っていたこの山域に立派な登山道が通じていたことは驚きであったが、また次ぎの山行の可能性を開いてくれることでもあった。

  約6時間の山行を終えて、極めて強い充実感の中にいる。往復6時間に及ぶロングウォークを完遂出来たことが第一の要因であるが、第二には県境尾根や支尾根の原生林の素晴らしさ、豊穣さを感受出来た喜びであると思う。これだけ豊かな森は、中国地方ではなかなか見出し難いと思う。台所原のブナ林も素晴らしいと思うが、こちらはそれ以上に野趣に富んでいる。いつまでも護っていきたい山域である。

  今までは、この山域の周縁部で遊んできたが、今後はその各方面からこの山域にアプローチしてみて、その素晴らしさをまた感じてみたいと思う。また、文中に書いた、台所原から高岳に至る大縦走も成就したいものだ。

 

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天杉山・県境尾根・奥匹見峡の花々

 (2007年6月30日)

 

 

 

 

オカトラノオ

(サクラソウ科オカトラノオ属)

イチヤクソウ

(イチヤクソウ科イチヤクソウ属)

 

 

 

 

 

???

コアジサイ

(ユキノシタ科アジサイ属)

 

 

 

 

 

コバノフユイチゴ

(バラ科キイチゴ属)

ヤマボウシ

(ミズキ科ヤマボウシ属)

 

 

 

 

 

ササユリ

(ユリ科ユリ属)

ナルコユリ

(ユリ科アマドロコ属)

 

 

 

 

 

ノアザミ

(キク科アザミ属)

コナスビ

(サクラソウ科オカトラノオ属)         

 

 

 

 

 

ヒヨドリバナ

(キク科フジバカマ属)

エンレイソウ

(ユリ科エンレイソウ属)

 

 

 

 

 

トチバニンジン

(ウコギ科トチバニンジン属)

ヤマムグラ

(アカネ科ヤエムグラ属)

 

 

 

 

 

???

マタタビ

(マタタビ科マタタビ属)

 

 

(花の同定はやはり苦手です。全く判らないものもあり、また誤りや勘違いがあるかと思います。ご先達の皆様のご教示をよろしくお願いします。)

 

 

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